さすがに毎日いつもの猟場では限界がある。
初日から二週間は、良く猪や鹿に出会う。
でもそこから出会いの数が急減していきます。
そこで、今日は昼前から、昔から地元の人たちが猟に使っている谷へ。
初めて行く場所なので、携帯の地図&GPSソフトを早めに起動しておく。
沢沿いの道を上がった後、なだらかに左右に曲がる林道を登ること40分。
山が高くなるについて、沢が深い谷になっていく。
V字の谷、両側30m。
麓から高さ150mくらいまでは、高い杉の林。
200~300mの高さは、広葉樹の高さ3mほどの細い灌木がそれに加わる。
谷に沿って上がっていくと、バキッと大きな音がした。
パキ、パキッ。
鹿がいる。谷の下の方から音がする。
50m前からも、枝が踏みつけられる音が。そして数分後には50m後ろから、こぶし大の石がゴロゴロ落ちていく音まで。
3匹?
落ち葉や杉の枝が足元には積もっている。前には50㎝~1mの高さの木々が枝を広げていて、前にも後ろにも動けず。
音がする度、前や後ろ、そして横を睨む。
けれども、谷は深く、水の流れる底は見えない。しかも日光がこちらへ向けて差しているため、逆光で見ている方は暗く、音だけが頼り。
辛抱、辛抱。
でも15分が限界でした。
前方の大きい音は、だんだん遠ざかる。
横と後ろの音は、たまに小さくパキッとするくらい。
横と後ろの音は気のせい?
(そんな訳はないんだけど、辛くなると好きなように考えてしまうのね)
思い切って、前の音を追うことに決める。
音は最小限にしているつもりでも、枯葉や枝を踏む音は出る。
5歩も進まないうちに、
ピー!
谷川を挟んで、真横で鹿が鳴いた。
でもいくら薄暗い谷を睨んでも、周りを見ても何も動かない。
(後日、山をもっと歩き出して分かったのだけれど、深い谷のせいで、その上や反対側にいた鹿の鳴き音が響いていたようです。)
仕方がないから、まっすぐ頂上を目指して、下草や3m前後の灌木を避けながら、高い杉山を登っていく。
途中、谷へ降りる所があったので、さっきの鹿を探してみる。
確かに足跡はある。
「でも、ほんとにこのV字の谷を登っていったのか?」
というくらい急斜面、というか壁に近い。
何とか足場になりそうな岩があるところを探して、落ちないようにその壁をよじ登る。
斜面に生える木を片手で掴み、石のそばに足を置いて一気上がろうとすると、
ゴトッ。ガラゴロ、ゴトッ。
50㎝くらいの大きな石を足で蹴落としてしまう。
ふっ~と息を吐いて、谷から右の山側へ出る。
灌木が濃くなるにつれて、猪の掘った穴や鹿の糞、足跡も濃くなっていく。
そのまま登っていくと、灌木の隙間から網が見える。
8合目あたりに鹿よけの網がしてあり、そこから上は2mほどの杉が植えてある。
その上には広葉樹の木々が見える。
右に行くと、なんと林道があり、左に行くと網が続く。
左へ行き、谷の上部を越えて向こう側へいくことにした。
そこから、少し下りながら奥へと進む。
山の斜面、尾根にも谷にも、立派な杉が見渡す限りに広がっている。
頂上部分に木や広葉樹が、僅かに見える。
尾根が一つ一つ谷で区切られ、杉林で上まで見通せる。
犬を使って、鹿や猪を上から追い出し下から撃つ、巻き狩りには絶好の場所。
でも、忍び猟には最悪でした。
150mも離れたところから、簡単に鹿に鳴かれてしまう。
ピー。
見通しもいいから、声もよく通ること。
小型のメス、2頭。可愛らしい白い尻が、上へ懸命に走っていく。
鹿がいた高さまで登ろうと、右手に進路を変えて進むこと2分。
ピー。
今度は4頭。頂上付近を、米粒くらいのメスが右から左へ、灌木や岩に出たり隠れたりしながら、バタバタ跳ねながら走っていく。
米粒の大きさだけど、銃口で追いつつ、3度目に姿が見えれば撃とうと思っていると、3度目は無し。岩の後ろへ行ってしまった。
口惜しいので、やっぱり鹿がいたところまでそのまま登る。
大きな岩を超えると両側の谷を見渡せる場所で、15分じっとして待つ。
フードを被っても、ときどき吹き抜ける風が冷たい。
もう駄目。性格的にも、じっとしていられない…。
一番大きな谷を中心に、大きく弧を描くように元来た場所へ降りていく。
尾根を越える毎に、沢がある。
杉の丸太の一本橋が掛かっている。しかも半分、いや三割腐りかけ。
長さ3m。微妙な距離。
一歩足を進めると、パキ。メキッ。
折れたら、下のあの岩へ飛び移ろうと考えながら、また一歩進む。
半分まで来たら、もう一気に走る。つもりで、急ぎ足。
いや~、折れないでよかった。ほんとに。
もう斜面を大きな足音を立てながら、斜めに歩いていく。
どんどん下る。
攻め方を変えれば、確かにここはいい場所かも。
一番端の尾根から頂上まで上がり、横へ移動していけば、もしかしたら、灌木の間から鹿は撃てるかも。ただし、先に鹿に見つからなけれの話だけど。
今日は、4時間半。ちょっと緊張した。
平均斜度45度。
ときどき、杉の枯れ枝や落ち葉に隠れた穴にすぽっと落ちる。
それでも、杉林は降りやすい。登りやすい。
20180126