21日目

さすがに毎日いつもの猟場では限界がある。

初日から二週間は、良く猪や鹿に出会う。
でもそこから出会いの数が急減していきます。

そこで、今日は昼前から、昔から地元の人たちが猟に使っている谷へ。
初めて行く場所なので、携帯の地図&GPSソフトを早めに起動しておく。

沢沿いの道を上がった後、なだらかに左右に曲がる林道を登ること40分。
山が高くなるについて、沢が深い谷になっていく。
V字の谷、両側30m。

麓から高さ150mくらいまでは、高い杉の林。
200~300mの高さは、広葉樹の高さ3mほどの細い灌木がそれに加わる。
谷に沿って上がっていくと、バキッと大きな音がした。

パキ、パキッ。

鹿がいる。谷の下の方から音がする。
50m前からも、枝が踏みつけられる音が。そして数分後には50m後ろから、こぶし大の石がゴロゴロ落ちていく音まで。

3匹?

落ち葉や杉の枝が足元には積もっている。前には50㎝~1mの高さの木々が枝を広げていて、前にも後ろにも動けず。
音がする度、前や後ろ、そして横を睨む。

けれども、谷は深く、水の流れる底は見えない。しかも日光がこちらへ向けて差しているため、逆光で見ている方は暗く、音だけが頼り。

辛抱、辛抱。

でも15分が限界でした。
前方の大きい音は、だんだん遠ざかる。
横と後ろの音は、たまに小さくパキッとするくらい。

横と後ろの音は気のせい?
(そんな訳はないんだけど、辛くなると好きなように考えてしまうのね)

思い切って、前の音を追うことに決める。
音は最小限にしているつもりでも、枯葉や枝を踏む音は出る。
5歩も進まないうちに、

ピー!

谷川を挟んで、真横で鹿が鳴いた。
でもいくら薄暗い谷を睨んでも、周りを見ても何も動かない。

(後日、山をもっと歩き出して分かったのだけれど、深い谷のせいで、その上や反対側にいた鹿の鳴き音が響いていたようです。)

仕方がないから、まっすぐ頂上を目指して、下草や3m前後の灌木を避けながら、高い杉山を登っていく。

途中、谷へ降りる所があったので、さっきの鹿を探してみる。
確かに足跡はある。

「でも、ほんとにこのV字の谷を登っていったのか?」
というくらい急斜面、というか壁に近い。

何とか足場になりそうな岩があるところを探して、落ちないようにその壁をよじ登る。

斜面に生える木を片手で掴み、石のそばに足を置いて一気上がろうとすると、

ゴトッ。ガラゴロ、ゴトッ。

50㎝くらいの大きな石を足で蹴落としてしまう。
ふっ~と息を吐いて、谷から右の山側へ出る。

灌木が濃くなるにつれて、猪の掘った穴や鹿の糞、足跡も濃くなっていく。
そのまま登っていくと、灌木の隙間から網が見える。

8合目あたりに鹿よけの網がしてあり、そこから上は2mほどの杉が植えてある。
その上には広葉樹の木々が見える。
右に行くと、なんと林道があり、左に行くと網が続く。

左へ行き、谷の上部を越えて向こう側へいくことにした。
そこから、少し下りながら奥へと進む。

山の斜面、尾根にも谷にも、立派な杉が見渡す限りに広がっている。
頂上部分に木や広葉樹が、僅かに見える。

尾根が一つ一つ谷で区切られ、杉林で上まで見通せる。
犬を使って、鹿や猪を上から追い出し下から撃つ、巻き狩りには絶好の場所。

でも、忍び猟には最悪でした。
150mも離れたところから、簡単に鹿に鳴かれてしまう。

ピー。
見通しもいいから、声もよく通ること。

小型のメス、2頭。可愛らしい白い尻が、上へ懸命に走っていく。
鹿がいた高さまで登ろうと、右手に進路を変えて進むこと2分。

ピー。

今度は4頭。頂上付近を、米粒くらいのメスが右から左へ、灌木や岩に出たり隠れたりしながら、バタバタ跳ねながら走っていく。

米粒の大きさだけど、銃口で追いつつ、3度目に姿が見えれば撃とうと思っていると、3度目は無し。岩の後ろへ行ってしまった。

口惜しいので、やっぱり鹿がいたところまでそのまま登る。
大きな岩を超えると両側の谷を見渡せる場所で、15分じっとして待つ。

フードを被っても、ときどき吹き抜ける風が冷たい。
もう駄目。性格的にも、じっとしていられない…。

一番大きな谷を中心に、大きく弧を描くように元来た場所へ降りていく。

尾根を越える毎に、沢がある。
杉の丸太の一本橋が掛かっている。しかも半分、いや三割腐りかけ。

長さ3m。微妙な距離。

一歩足を進めると、パキ。メキッ。
折れたら、下のあの岩へ飛び移ろうと考えながら、また一歩進む。
半分まで来たら、もう一気に走る。つもりで、急ぎ足。

いや~、折れないでよかった。ほんとに。

もう斜面を大きな足音を立てながら、斜めに歩いていく。
どんどん下る。

 

攻め方を変えれば、確かにここはいい場所かも。
一番端の尾根から頂上まで上がり、横へ移動していけば、もしかしたら、灌木の間から鹿は撃てるかも。ただし、先に鹿に見つからなけれの話だけど。

今日は、4時間半。ちょっと緊張した。
平均斜度45度。
ときどき、杉の枯れ枝や落ち葉に隠れた穴にすぽっと落ちる。
それでも、杉林は降りやすい。登りやすい。

20180126

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