34日目(鹿が猪に)

34日目
・ゴルゴ13の偉大さをあらためて知る。
・鹿が猪に替わった話。
・山が一番、足は2番、犬はなし。

◇今日は、あらためて、ゴルゴ13の凄さを知りました。

2つの猟場では、4~5時間歩いても
鹿も猪も2週間ほど姿を見ないため、新しい猟場を試してみました。

朝から曇天で、いつになく気温が高く、風もない。

使われていない段々畑を降りて、小川を超えて低山が奥へ連なるような場所。
小川を超えて対岸に入ると、猪の食み跡あり。
20mほど登ると、1m幅の小道があり、やはり猪の食み跡が所々に。
新しい鹿の糞も多い。

小道は、尾根をぐるりと回って、枝尾根を越えながら、少しずつ登っていきます。
数歩歩いては、あたりを伺いながら、ゆっくり進みます。

別の尾根を回り、10mすぎたところ。
谷向こうの尾根の斜面。距離約15m。
3m視線をあげたところに、40㎏くらいの雌鹿が不意に右から歩いてきました!

鹿と私の間には、谷を挟んで、灌木がある。
とくに目の前には5~6本に分かれた樫の木があって、
ちょうどその向こうに鹿が入ってきたのです。

「棒立ちの鹿を見つける」

ここ2週間の目標が、こんなところで達成されるとは。
(我慢して、歩いてきてよかった)
心臓は、早く、強く打ち、銃が揺れそうに感じるくらいです。

足場は、幅20㎝くらいで、40度を超える急斜面。
音を立てずに、なんとか左足を10㎝ほど鹿に向け、
腰をひねりながら、ゆっくり挙銃します。

5秒すぎ、10秒過ぎ…。

やっと、鹿が樫の木の右側に体半分出して、
向こうを向いて腰の高さにある草を食べ出す。

狙うのは、首の下の方。
(首の上の方は外しそうだし、体に傷はつけたくない)

期待と興奮で、心臓は相変わらず
ドドドドドドドドドと連打中。

ドーン!

鹿は、左へ走る(弾は外れた)。
足場も悪く、また、すでに腰を左にひねっているため、これ以上左へは撃てない。
くっーと思って、鹿を目で追う。

10mほど左へ走った鹿は、なぜか尻だけ見せて、枝尾根の向こうで止まった。
足を止め、じっと音を立てずに、隠れているつもりのよう。

「ラッキー!」と欲に駆られて、向こうの谷へぐるっとダッシュ。
(ここで走らずに、またゆっくり進めば良かったのに…)

どたどた走るもんだから、当然鹿もこちらに気が付き、跳ねる。走る。
向こうの谷に着いた時には、鹿は30m先の急斜面を駆け上がり、頂上へでるところ。
こちらは、そんな急斜面は、走れない。

また、やってしまった…。
貧すれば鈍す。獲れない猟師は、駄目ですね。

◇でも今回は、ここからが違う。
反省して冷静になる。

撃たれてもすぐに止まった鹿なら、またすぐに止まるかも。
ということで、鹿の通った後を追わず、急斜面の枝尾根をぐるっと迂回して向こう側から頂上へ向けて追うことに。

30分以上かけて、ゆっくり音を殺して進む。距離にして300m程。
尾根に上がったところで、膝くらいまでの草が茂る30㎝幅の小道があった。

そこには、20㎝幅の通いがある。
鹿の新しい糞も。

この小道を左に下るか、右に登るか。

右を選ぶ。
ゆっくり、静かに。
十分に時間を使って。

鹿が上がってきたところに出る。
山は、左右の尾根と奥の斜面に分かれる。
奥の上り斜面に向かって数歩進むと、下草の間に30㎝のすべった足跡があった。

鹿の焦りようが伝わってくる。
爪跡の先は、奥の斜面へ向いている。

尾根筋を超えて、その斜面側へ入った途端、
鹿が15m先の藪の中をバタバタ走る音が(姿は全く見えず)。
やっぱり、まだ近くにいる。

膝をついて、灌木の間から音のする方に目をやるも、
見えるのは椎や榊の低木、枯れ草がところどころに覗くくらい。

でも我慢。

膝をついたまま、音を聞いていると、今度は、左上の尾根からガサッ。
ガサ、ガサッ。
距離は、20mもない。

姿は見えず。
音が尾根沿いに下りてくる。

見えた!
ほんの一瞬、黒い影が。

こちらに気づかず、鼻で何かを探しながら、
止まっては進み、下りてくる。

今度は、もっと我慢。
銃をギリギリまで上げない。

10m。
まだ灌木や草が邪魔で、姿は見えない。

6m、足から上の体がすべて見えた。
銃を上げ、首に狙いをつける。

「あっ、くそッ」
灌木の後ろに入った。

狙いはそのまま。
ガサ、ガサッ。出てきた。

5m、もう目の前。
こちらに気づいて、目が合う。

鼻先を左に向けた瞬間、ドーン!

今度は命中。倒れて、足をバタバタさせながら下に落ちてくる。
50kgを超えるオスの猪。

とれたのは外した鹿のお陰。

ーーーーーー

追記:
単独での忍び猟・渉猟で一番大事なのは、動物の陰の濃い山を選ぶことだと思う。

当たり前のようだけれど、足が強くても、いい犬がいても、
どんないい銃があっても、獲物が少ない場所では出会うのが大変だというのが実感です。
足も弱いし、犬もいない自分のような初心者の方には特に。

いい山とは、小さい枝尾根が多い山。獲物との出会う機会が多いから。
高くても300mくらいまでが理想的。
餌が多い。椎や樫が生え、場所によって下草もある。

天気は、雨の後。風は弱め、曇天。無風なら快晴も。

獲物の引き出しのことも考えると、
なんとか1~2時間くらいで山から下せそうな距離の猟場がいい。

特に単独猟では、山からとった獲物を一人で引き出すところが、獲る次に大変な作業となるので。

20180215

17日目(初めての鹿)

予報通り、朝から雨。
思っていたより強い雨のため、午前中の出猟は取りやめ。

12:00を前にして雨が止み、気温15度を超える。
太陽も顔を出して、明るくなってきた。

急いで昼食を済ませ、12:30には猟場へ到着する。
いつもの林道の一番奥から、沢の右側斜面へ向かうことにする。

沢の手前で、足元を見ると、なんと沢ガニを発見!
急な暖かさと雨で、春と思ったのか。
今日は、空気がぬるい。

沢の音も、いつになく大きい。
右の斜面を登り、時折、斜面を平行に進む鹿の通いを
通りつつ尾根を越え、反対の斜面から頂上を目指すことに。

ふと見上げると、かつては杉を出すときに使ったのか
幅50cmほどの古い道がある。
そこを通って、谷を八分目まで一気に上がる。

斜面にある通いには、1cm を超える鹿の糞が落ちている。

あとの二分は、シダの中にある僅かな獣道を慎重に上る。
雨の後のため、落ちている杉の枝や石をシダの中で踏むと滑る。

森は静か。
気温が上がっているので、霧も少し出てきた。

雨が上がったばかりなので、足跡は崩れほとんど判別不能だが、
いつもの猟場だし、こちらの足音も響かない方がいい。

霧から、靄(もや)に変わってきた。
動物が油断してくれるといいけど。

いつもの尾根の周回コース。
尾根近くにくると、上で風が鳴っている。
ゆっくり、尾根の左右に注意しながら、尾根にあがる。

静がでしっとりとした雰囲気。
南側から吹き上げる風のおかげで、足音が更に消される。
いつもは3~5mくらいに近づいた時に飛び立つ鳥も、
真下を過ぎて、やっと慌てて飛び上がるほど。

木漏れ日で、足音が明るくなってきた。
午後からの猟は、いつも動物と会う機会がぐっと減るけど、
午前の強い雨、そして雨の直後は、どんな動きをしているか。

◇尾根をゆっくり歩くこと小一時間。
動物がいそうな雰囲気は、すごくあるんだけど。

谷に入ってから3時間ほど経っても、
一向に足音も声もせず、姿も見えず…。
ただ、松の香りが強く漂っているだけ。

普段なら、ここからの下りの尾根は1時間ほどで降りてしまう。

立ち止まって、水を一飲み。
息を吐いて、下りへ向かう。

「滑らないようにせんとな」

急斜面を音を立てずに降りるのは、本当に難しい。
それでも濡れた落ち葉のおかげで、いつもの半分の大きさしかない。

パラパラと小雨が葉っぱを叩き出した。
森は少し暗くなってくる。

見上げると、雲はまだ薄く明るいが、雲の流れが早い。
「本降りになる前に下まで降りるか」

ここの下りは、細い灌木が多く、左右も下も見通しがきかない。
灌木の間に下りの道を探りながら、早足で降りていく。

突然5m下、左の灌木影から、全速力の鹿の群れが左から右へ抜ける。
1頭目は、一瞬で右の灌木に消えた。

考える間もなく、2頭目を撃つ。

激しく走る鹿と大きな足音。
そして、倒れる姿を右下に見ながら、
続けて3頭目、4頭目へも連射する。

急斜面で、どうやって態勢を保ったのかも分からないほど。
当たったのは、一発目。
弾は、首の後ろの背中から、反対側の下っ腹へ抜けていた。

この17日間、すべて先に鹿に気づかれた。
今日は、雨のおかげ。

20180118